猫を拾った
二人が帰って、ようやく一息つく。
紫、と声をかけながら、体を揺する。


でもそんなんじゃ起きなくて、寝返りを打つだけ。

ため息をついて、紫を抱え上げる。


手間のかかる女だ。
...でも、嫌いじゃない。



『どうして!?あの子を殺せと言ったでしょう!』


『あの子にはこの世は残酷すぎるわ!』


『あの子には...穢れのない、世界が...』



耳に残るあの女の声。
あの女こそ、実に残酷だ。


この世は残酷だからと、自分の娘を消そうとする。

紫はきっと、母が最低な人間だと知っているだろう。
だから、父親と住んでいた。

だから、母親にはついていかなかった。



“あの子には穢れのない世界が”



言いきらずに死んだ。
その先が、気になって仕方ない。


似合う、なのか、向いている、なのか。


向いていると、似合うは、また違った意味だ。

向いているというのは、彼女の能力含めた話だ。
しかし、似合うというのはただの外見だ。


毒親なんぞに、能力なんてわかるのだろうか?



「おと.....さ...」



ベッドに下ろすと同時に、なにか喋る。

それをお父さんだとすぐにわかった。
でも不思議と、殺したことに後悔は微塵たりともなかった。
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