猫を拾った
「名はなんという」


「え?あぁ...結城です、結城紫」


「...俺は秋原千里だ」


「あ、秋原...さん」


「気軽にアキとでも呼べ」



男...アキさんがそう言う。

表情は堅く、威圧的な雰囲気がどこかしらにある。
...そもそも、この男は人殺しだ。


今日見た防犯カメラを思い出す。

こっちを見ていて、映像越しに目が合って...



「...あの」


「なんだ」


「......どうして父を殺して、私を殺さなかったんですか」



意を決して口を開く。

これで殺されても、酷い目にあっても、どうせ父はもう死んだのだから関係ない。


学生である私の唯一の手綱がなくなった。

もう私は半ば、ヤケクソのようなものだった。


知って死ぬのと、知らぬまま死ぬのでは心残りに差があるというものだろう。



「そういう指示だ。お前の父を殺すように、俺は命じられて殺したまでだ」


「っ...頼まれれば、殺すんですか」


「あぁ。俺の生活もかかっているからな」


「......遺された私は、どうしろと言うんですか」



声が震える。
この男はなんと、自分のことしか考えていなかったのだ。


私は何もしていない。
父の娘と言うだけ、ただそれだけだ。
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