御曹司にビジネス婚を提案されたけどもしかしてこれは溺愛婚ですか?
既に春と夏の境目だが、まだ半年以上も幸福がもたらされるのかと嬉しく思った。

「ありがとうございます。異物混入だと思って一瞬胃が痛くなりましたよ」

「はい。顔に出ていました。分かりやすいですね」

そんなあなたは分かりにくいですねとツッコみたくて仕方ないが、ここは大人しくしておこう。

「それでは王女様、ご命令を何なりと」

彼は席を立ち私の隣で|片膝を床につけ、片手を胸元、もう一方の手は腰に回し、お辞儀をしながら言った。

私の目には、まるでおとぎ話の王子様のように映っている。

でも命令って……。

突然すぎて何も浮かばない。

私が何も言わないからか彼はずっと片膝を床につけた体制を保っている。

これは申し訳ない。

「では、夜までお付き合いいただけますか?」

一人でシュークリームと共に迎えるはずだった30歳の誕生日が、日本でもなくフランスで、母と約束したあの街に行き、こんな素敵なレストランで特別なケーキまで用意してくれ一緒に食べてくれる人がいた。

十分恵まれた一日だったのに、私は欲を出してしまった。

出来れば今日が終るその時まで一緒にいて欲しい、誰かに側に居てもらいたい、弱い心がそう叫んでいた。

「かしこまりました。では食事を終えたらホテルに戻りましょう」と彼は言って残りのケーキを食べ始めた。

ホテルで飲み直すのも悪くない。

二人きりならこの能面もあのときみたいに一瞬崩れるかもしれない。

彼の豊かな表情が見られるかもしれない。
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