御曹司にビジネス婚を提案されたけどもしかしてこれは溺愛婚ですか?
高校まで同じだった信子が東京に住んでいたので相談するとまずは職を探すように言われた。
職が無いと家を借りられないことが多いらしい。

職探しの間、信子の家に居候させてもらい、職を見つけてすぐに東京に引っ越してきた。

あの頃の私にはここを借りるので精一杯だった。

最初は母と暮らしていた頃の家具を使っていたが、洗濯機が壊れ、テレビが映らなくなり、冷蔵庫が冷えなくなった。買い替えるものが増えて行くと、母との思い出も段々と薄れていった。

引っ越そうと思いながらも、より良い環境へ引っ越すまでの余裕はなかった。

それに、私が1階に住んでいても危ないことはこの8年一度も起きなかった。

もう8年か。そう思いながら部屋の中でとりあえず数日困らない程度の衣服や日用品を詰めていると玄関がノックされドアが開いた。

「こういう時は手伝うべきでしたね」と言いながら玲音はドアの所に立っている。

「大丈夫です。すみません、ちょっと探し物をしていたので遅くなりました」

私は母からの手紙が入った荷物を持ち、玲音の所に駆け寄った。

「持ちます」

「いいですよ。軽いので」

「いえ。持ちます」

玲音はそう言うと私の肩から荷物を取り、玄関の外に出た。
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