御曹司にビジネス婚を提案されたけどもしかしてこれは溺愛婚ですか?
わずかな距離を玲音は私の荷物を持って歩いている。

営業スマイルもないし、接客対応のような振る舞いでもないこの行動は何故か私の心を少しだけ揺れ動かした。

閑静な住宅街の坂道に段々畑のように2階建てのコンクリートの家が立ち並んでいた一画で車が止まった。
一軒家にも見えるが、それぞれ1階と2階には別の住人が住んでいるらしい。

玲音の部屋は坂の一番上だった。

掃除が行き届いた広い玄関には大きな絵が飾られている。玲音の実家で見た絵のタッチと同じだ。

濃い青、薄い青、淡い青、様々な青で描かれた海の中の絵はとても心が癒される。

玄関を過ぎると左手に寝室、右手に書斎やジムとして使われている部屋が並ぶ廊下があった。トイレやバスルームもあり、その奥にアイランドキッチンがある広いリビングがあった。

リビングにあるソファーは私のベッドよりも寝心地のよさそうな重厚なものだった。

これなら申し訳なさも半減だ。

白髪の男性が私の荷物を先に持って来てくれて寝室に置いてくれたようだ。

「冷蔵庫に入っているものは自由に飲んだり食べたりしてください。足りなければ出前でも頼んでください。道を覚えるまでは一人で家を出ないでくださいね」

私の迷子癖を心配しているのだろう。
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