強情♀と仮面♂の曖昧な関係
私の実の父は私が生まれる前に亡くなった。
母も私が小学校に上がる前に、病気で死んだ。

育ててくれたのは母の妹夫婦。
それが今の父さんと母さん。
子供のいなかった2人に大事に育てられた。

私の中には父の記憶はもちろん、物心ついたときから病床についていた母の記憶もほとんどない。
私にとって両親は父さんと母さん。
でも、自分のルーツとしての父母をいつも感じていた。

「紅羽のお父さんはお医者さんだったのよ」
「紅羽のお母さんはとっても綺麗で、優しい人だったのよ」
母さんはことあるごとに話してくれた。
家族の誰もが私が養女であることを隠そうとはしなかった。

亡くなった父は、今私が勤める病院の医師だった。
新生児科で、小さく産まれた赤ちゃんを診ていたらしい。

その父が亡くなったのは28歳の時。
私が生まれる3ヶ月だった。
医師となってまだ2年目。
死因は不明。
突然病院で倒れ、そのまま亡くなったと聞いている。
当直と残業続きの激務の中、母さんに『明日の夕方には帰るよ』って電話もしていたのに。
あと少しで生まれる我が子に会うこともできず、どんなに無念だったろう。

そして、父さんはどんな医者だったんだろうか。
私はその死の状況を知りたくて医者になった。
さすがに、何か陰謀めいたことがあるとは思っていない。
唯々気の毒な死だったんだろうとも思う。
でも、少しでもいいから当時の父のことを知りたい。
自分の遺伝子を感じてみたい。
いつの頃からか、そんなことを考えていた。

なんて、半分は言い訳。
かわいげがなくて、友達も少なくて、誇れる物は勉強だけ。
そんな私に勧められたのが医学部の受験だった。

私が隣県の国立大医学部を受験すると決めたとき、
「やっぱり血かなあ」
酔っ払った父さんがそう言った。

父さんも母さんも地元の公立大の教育学部を出ていて、立派に教師として働いているのに、そんなことを思うんだと驚いたのを覚えている。

そんなこんなで、私は父の母校に進学し、父が働いていた病院で勤務医となった。
きっと、探せば父を知るドクターもいるとは思う。
でも、あえてそれをしようとは思わない。
ただ同じ場所に立ってみたかった。
それに、養女になった時点で名字も違うから、きっとバレないだろうし。
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