強情♀と仮面♂の曖昧な関係
昨日休んだ分の残務があり、8時を回ってやっと帰宅。

「あれ、来てたの?」
いかにも仕事帰りらしい公がいた。

「ああ。怪我どう?」
「大丈夫。それより部長、頭にくる」
昼間の怒りが再び燃え上がる。

「くせ者らしいな」
「うん」
「仕方ない、うまくやれ」
「何よ。人ごとだと思って。公は得意の二重人格で、誰とでもうまくいくんでしょうね」
疲れもあって、つい嫌みを言ってしまった。

こんな時、心の中では「公、ごめん」って思っている。
本当はこんなこと言うつもりはないのに、公を前にすると甘えが出てしまって・・・
それでも心の広い公は、聞き流したり、頷いたり、上手に聞き手に徹してくれる。

しかし、今日は、
「嫌みはいいよ。そんな気分じゃないんだ」
あら、機嫌が悪い。

でも、私はそれ以上に最悪の気分。
「疲れてるなら帰れば。私は大丈夫だから」
憎まれ口が勝手に口から出た。

「はあー、お前って奴は」
公が呆れてる。

私にもう少しだけかわいらしさがあれば、なんとかなったのかもしれない。
医者のくせに、公が今どれだけ追い詰められているのかに気づくことができなかった。
そして、小さなボタンの掛け違いが取り返しがつかない結果を招くことを、想像すらできなかった。

私は公に、「何かあったの?」の一言をかけることもしなかった。
自分のことで精一杯で、公を思う気持ちがかけていた。

しばらくして、
「お前さあ、悪いのは全部部長で、自分は完全な被害者だって思ってる?」
不機嫌そうに聞いてきた。

「もちろん」
私は間違ったことはしていない。
すべては部長の意地悪。

「あのさあ・・・まぁいいや。元気そうだから、俺帰るわ」

え。

この時になって、自分の態度を後悔した。
でも、もう遅くて、

「じゃあな」

えええ。

本当に帰っちゃうの?
そんな言葉さえ、口にできなかった。
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