強情♀と仮面♂の曖昧な関係
その日の夕方、私は救急外来に呼ばれた。

時刻は午後6時。
ちょうど開業医の受付が終わる時間とあって、かなりの患者で混雑している。

「山形センセー、お願いします」
すぐに看護師から声がかかり、熱で元気のない赤ちゃんの診察をした。

「お母さん、ミルクは飲めますか?」
「いえ、あまり」
「そうですか、水分は?」
「飲めています」
「じゃあ、無理せずに少しずつ水分を取らせてあげてください。今夜分の薬と座薬を出しますから明日外来に来ていただけますか?」
「はい」

何か変わったことがあれば救急を受診するようにと念を押し、私は赤ちゃんの元を離れた。


あれ?
みんなが遠巻きに翼を見ている。

「なあ、検査急いでよ」
不機嫌丸出しの翼。
「待ってください。今、準備します」
若い放射線技師は慌てている。
「だから、急いでっ」

はあ、随分荒れてるわね。


「ねえ、小児科呼んでって言ったよな」
今度は研修医へ。
「呼んでます」
「じゃあ何で来ないんだよ」

あー、もう。
「はい、来ましたよ」
「遅えよ」
プイと向きを変えた。

そのまま背を向けて離れていった翼。

今度は向こうの方で、

「だ、か、ら、何回同じこと言わせるのっ」
看護師に怒ってる。
「すみません」
若い看護師が謝る。
「すみませんはいいから、やることやってよ。タラタラやってたらいつまでたっても終わらないだろう」
すごーく感じが悪い。

間違ったことは言ってないんだけれど、キツすぎ。
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