強情♀と仮面♂の曖昧な関係
「福井先生、ちょっと」
私は翼を呼び、腕をつかんで処置室のデスクまで連れてきた。

「何だよ」
ブツブツ文句を言いながらついてくる翼。

「何してるのよ」
「別に」
ふてくされた口調。

いつもそんな顔をしていれば、キャアキャアと追いかけられることもないのに。
でもね、これは本当の翼じゃない。

「よく見なさい」

私は、翼の体を180度
回転させた。

広い救急外来の処置スペース。
10数台のベットが並び、軽症者用の診察室も5つ。
今はどこも患者で溢れている。
みんな目の前の患者の治療に専念しながら、チラチラとこちらに視線を送っている。

特に、
こちらを睨み付ける放射線技師。
オドオドと萎縮気味の研修医。
目を潤ませ泣き出しそうな看護師。
みんな翼の不機嫌のせい。

「しっかりして」
ちょっとだけ本気で、お腹にグーパンチを入れた。

「うっ」
小さな声を上げて、翼が睨む。

「何があっても翼は翼なんだから、グラグラしないで。翼は救命医でしょう。そのあなたがみんなの仕事の足を引っ張ってどうするのよ」

「・・・」
翼は黙ってしまった。

数秒後、フッと穏やかな表情になって、

「すまない。どうかしてた」
パンパンッ。
自分で自分の頬を叩く翼。

よし、いつもの顔。

「目は覚めたのね」
「ああ」
優しい翼に戻っていた。

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