強情♀と仮面♂の曖昧な関係

患者の急変

実家に戻って数日、体調も良くて穏やかに過ごしていた。
正直、仕事のことはすっかり頭になかった。

そんなとき、
ブブブ。
突然鳴った携帯。

時刻は夜の9時。

何だろうと確認すると、夏美からの着信だった。
珍しいなと思いながら、すごくイヤな予感がする。

「もしもし」
「山形先生?」

えっ?
夏美がこんな呼び方をするのは仕事の時。
って事は、誰かが急変?

「どうしたの?」
幾分自分の声が緊張しているのがわかる。

「唯ちゃんが急変した」
「嘘」
「本当よ。月末まではこっちの病院に席があるんだったわよね?」
「ええ」
だったら来なさいと、夏美は言っている。
私も躊躇いはなかった。

「少し時間はかかるけれど、向かうから」
「ええ、待ってる」
今から向かっても間に合うかどうかはわからないけれど、とにかく行こう。

夏美からの電話を切ってから、私は身支度を始めた。
この時間だから、駅まで行って電車があるか確認しよう。
もしダメならタクシーを拾おう。
そう思って部屋を出た。

こんな時間に黙って帰るわけにもいかず、私は父さん達の部屋をたずねた。

「ごめん、受け持ちの患者が急変らしくて。一旦帰るわ」
荷物を手に声をかけると、
「送っていく」
と、父さんが立ち上がった。
「でも・・・」

「お前車で来てないんだろう?」
それはそうだけれど。

「無理したらダメよ。1人の体じゃないんだから」
母さんにも言われ、素直に送ってもらうことにした。


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