S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
幼馴染みの呪縛


世の中には、神様から一物どころか二物も三物も与えられた人間が存在する。
肩書きや収入はもちろん容姿も文句のつけどころがない、そんな人間が。

一月中旬の午後、イチゴタルトが人気の高級パティスリー『ミレーヌ』のカフェスペースに差し込む光の弱さは、春がまだ遠いことを知らせている。

若槻(わかつき)菜乃花(なのか)は、向かいの席に座って優雅にコーヒーを飲む男を恨めしいとも羨ましいともつかない想いで眺めながらタルトを口に運んでいた。

二十四年間生きてきたが、彼以上に神様に愛されている人間はいないと断言できる。

綺麗に整えられた眉に、知らないことなどなさそうな理知的な双眸。細く通った鼻梁や少し薄い唇は一見すると冷たそうだが、やわらかな笑顔を向けられれば誰もがみな胸を撃ち抜かれてしまう。

いわゆる塩顔と呼ばれる涼しげな顔立ちは、窓の外を歩く人の目まで奪うほどに魅力的だ。

京極(きょうごく)朋久(ともひさ)、三十二歳。菜乃花とは八歳違いの幼馴染みである。
ついでに、物心ついたときから菜乃花が密かに想いを寄せている相手――つまり長い間恋焦がれている初恋の人でもある。
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