S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
たしかに少しだけ声が上ずっている感じはするが。
そんなやり取りをしているとリビングのドアが開き、彼の両親が入って来た。
「おじさま、おばさま、こんばんは」
いったん立ち上がって挨拶する。
「朋久が話があるっていうからなんだと思ったら、なっちゃんも一緒だったのか」
「まぁ、なっちゃん、会うのはお正月以来かしら」
法律事務所のCEOである彼の父、浩平には職場でもたまに会うが、母の寿々とは約一カ月半ぶりだ。
間もなく還暦を迎える浩平は黒々とした豊富な髪を整髪料できっちりまとめ、朋久が受け継いだ切れ長の目をしている。
浩平よりふたつ年下の寿々はワンレンの髪を顎のラインで揃え、目元のぱっちりした美人。朋久の通った鼻筋は母親譲りだろう。
「はい。その後、お変わりありませんか?」
「ええ、変わらないわ。なっちゃんはこの二カ月でぐっと大人っぽくなったんじゃない?」
「そうでしょうか。なんか恥ずかしいです」