S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

*****

二日後の日曜日の午後、この結婚の発端となった朋久の恩師である藤谷に会うため、菜乃花は彼とふたりで待ち合わせ場所に向かっていた。

高級として名高い外資系ホテル『エステラ』のエントランスで車を降り、バレーサービスに託す。
ついに本番。菜乃花の演技力がなによりも試される場である。


「緊張するね」
「リラックスリラックス。いつもの菜乃でいいから」


そうは言うが、朋久の手が腰に回されているのに平常心でいるほうが難しい。男の人と密着して歩く自体が初めてなのだから、それが朋久では失神レベルと断言できる。
朋久の恋人としての経験値が低いため、未だにどう振る舞ったらいいのかわからない。

藤谷との約束は一階にある『光風堂(こうふうどう)』という老舗の和菓子カフェだった。

店内に入ると、先に到着していた藤谷が朋久に気づいて手をあげる。店のスタッフに案内されたテーブルは藤谷ひとりではなかった。


「藤谷教授、こんにちは。綾美さんもいらしてたんですね」
< 113 / 300 >

この作品をシェア

pagetop