S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
観覧車マジックとキス


朋久と入籍してから一週間が経過した。生活はほぼ変わらず、もしかしたら結婚は夢だったのではないかと疑うくらいに変化がない。
もともと形式だけのものだから、甘い雰囲気が訪れるはずもないのだけれど。

ただひとつだけ変わった点といえば、朋久が帰ったときに玄関で〝おかえりなさい〟と出迎えるくらいだろうか。そこだけ切り取ったら新婚家庭のよう。

どうせならハグくらいしてくれてもいいのにと彼に念を送るが、毎度目を逸らされておしまいだ。

当然ながら寝室はべつ。まさに偽装そのものと言える。

地下鉄の改札口を抜け、閉塞感のある地下から地上に出る。三月に入ったばかりの街はまだ春が遠く、冷たい北風に吹かれた枯葉が歩道を舞っていた。


「京極さん、……京極さん。……もうっ、菜乃花ってば!」


痺れを切らしたような声を掛けられると同時に後ろから背中をトンとされた。


「里恵か、びっくりした」
「何度も〝京極さん〟って呼んでるのに気づかないんだもん」
「ごめん。まだ慣れなくて。でも、職場では旧姓のままだから」
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