S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

父親同士が高校時代の友達で、幼い頃から朋久は誰よりも身近な異性。当面の学費は保険金でなんとかなるものの、いきなりひとりになり不安しかない菜乃花にはありがたい話だった。

それも長年片想いをしている相手。もしかしたら朋久との距離が縮まるかも……と淡い期待を抱いたが、ふたりの関係は七年経った今も幼馴染みのまま。朋久の菜乃花に対する扱いは、妹のそれと変わらない。

たぶんふたりは、この先の未来もこのまま。彼が一度抱いた〝妹〟への感情は愛情に変わりはしないだろう。

そう考えるとき、菜乃花はいつも思う。

(朋くんとは幼馴染みとして会いたくなかったな)

八歳離れているとはいえ大人になってから出会えば、最初から女性として見てもらえたかもしれない。彼の中で少女のままの印象しかないのが諸悪の根源だ。
昔からの知り合いという、ほかの女性たちからしたら羨ましいアドバンテージは、菜乃花にはかえって恨めしいものだった。

すっかり日が落ちた街に冷たい北風が渦を巻いていく。
菜乃花はマフラーを口元まで引き上げ、体を縮めて駅までの道のりを急いだ。
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