S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

「私たちはないなぁ。お互いに二十四歳だし、結婚するにしてもまだ先だよー」
「そっか」


二十四歳同士だと、たしかに早い気はする。とはいえ結婚は勢いだとよく聞くから、里恵たちだってどうなるかわからないだろう。
菜乃花と朋久がいい例だ。それこそ勢いで結婚した最たる事例と言える。――愛がそこにないのがなによりも痛い点だ。


「そういえば菜乃花は結婚指輪つけないの?」
「えっ、あ……」


唐突に指摘されて焦る。
婚姻届にばかり意識が向いていたため、指輪の存在が頭になかった。
朋久もきっと忘れているだろう。


「いつから着けてくるのかなーって気になってたんだけど、もしかして職場ではわざと外そうって話になってるの?」
「あ、うん、そうだね」


同調する以外にない。結婚したくせに指輪の準備を忘れていたなんてシャレにならないだろう。それこそ疑いの眼差しを向けられ兼ねない。


「京極先生みたいな人気者が相手だと、いろいろ気遣って大変だね」


菜乃花は笑って誤魔化す以外になかった。
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