S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

「……いいよ」


消え入りそうな声でなんとか返す。


「え?」
「だからその……ぎゅってするくらいなら。……あ、このニットね、本当に気持ちがいいの。だからどうぞってだけ」


呆気にとられている朋久に変に勘繰られたくないため、理由を適当に見繕う。気持ちがいいからどうぞってなに、と自分に突っ込みを入れたくなった。


「それにほら、私たち夫婦なんだよ、ね?」


あくまでも偽装ではあるけれど。


「だから大丈夫だよ」


平気だと振る舞っておきながら、大それた発言をしている自覚があるため体が微かに震える。


「それじゃ」


朋久が菜乃花に一歩、また一歩と近づくごとに心音が高鳴っていく。
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