S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

菜乃花のテンションが一方的に上がるだけだろう。


「さっき程度のマシンでヘロヘロになってる人がここにいるんだから仕方ないだろ」


それを指摘されたらなにも言い返せない。
まさにヘロヘロ。足はガクガクだ。


「ほら、行くぞ」


繋いだ手を引かれ、散歩を嫌がる犬のごとく観覧車乗り場まで連れて行かれた。

係員に誘導されて小さな箱に乗り込む。足を踏み入れた途端ぐらりと揺れ、「きゃっ」なんてかわいらしく声が出たのは決して狙ったわけではない。

でもそのおかげで「大丈夫か?」と朋久に肩を引き寄せられたのはラッキーだった。直後に「足腰が弱り過ぎ」と言われたのを除けば。

扉が閉められ、ふたりきりの空間が出来上がる。

同居していればふたりきりなのは当然だし、別段珍しいことではない。車だってそう。
それなのにそんなときとは比べ物にならないくらいに鼓動が速まっていく。観覧車というロマンチックなシチュエーションがそうさせるのだろう。

向かい合って座った朋久のほうは見られず、窓の外を意識的に向く。
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