S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
やわらかな感触が菜乃花の鼓動を弾ませる。
(と、朋くんとキスしてる……!)
信じがたい展開が菜乃花の思考回路を全停止させた。頭は真っ白。なにも考えられない。
唇が重なっている事実に、ただただ胸をときめかせていた。
時間にしたらものの数秒だろう。重ね合せただけの唇を軽く食んでからキスが解かれた。
ゆっくりまばたきをしながら彼を見つめる。
「そんな顔すんな」
「……え?」
「もっとしてほしいって顔」
「ま、まさかっ」
ニヤッと笑った朋久の胸をトンと叩いて離れる。
とろんとした目をした自覚があるためギクッとした。慌てて表情を引きしめ、朋久を軽く睨む。
「今の、私のファーストキスだったんだからね?」
悪態をつく以外に出方がわからない。素直に〝もっとキスしてほしい〟とねだったら、少しはかわいい女だと思ってもらえたかもしれないのに。
「夫婦なんだから問題ない」