S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

「それ、おいしいか?」


半分まで食べたところで彼に尋ねられ、手を止める。


「朋くんも少し食べる?」
「いや、いい」


タルトののった皿を前に滑らせたが、彼は軽く頭を振って答えた。
甘いものが苦手な朋久の答えはわかっていたが、じっと観察されたら聞かずにはいられない。


「ここのイチゴタルト、すっごく人気だしおいしいんだよ? せっかく来たんだから食べたらいいのに」


SNSや雑誌でもおなじみ、いつでも賑わっている超人気店のイチゴタルトは何度食べても飽きない。
皿を自分のほうに引き寄せ、大きく割ったひと切れをこれ見よがしに口に運ぶ。


「それならおじさんとおばさんの墓前に供えてやればよかったな」
「あ、ほんとだね」


彼のひと言に、はたと気づく。
とはいえ、墓地でスイーツを食べるのは少し場違いな感じもするけれど。
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