S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
別れの痛みに胸を焦がして
「……きさん、これ、今日の午後の座学研修の追加資料。……若槻さん? 聞いてる?」
「あっ、はい、すみません。なんでしょうか」
「なんでしょうかって」
マネジャーの高坂が少し呆れたように眉を上げ下げする。
自席でパソコンに向かっていた菜乃花だったが、上司に声を掛けられてもまったく聞こえていなかった。
「若槻さん、ここ数日おかしくない?」
「いえ、そのようなことは」
急いで首を横に振り、取り繕って表情を引きしめる。仕事中にボーッとするなんてどうかしている。
「らしくないよ? 大丈夫?」
「申し訳ありません。大丈夫です」
頭を下げ、用件をもう一度尋ねた。高坂は菜乃花に資料を手渡し、首を捻りながら自分のデスクに戻っていった。
「菜乃花、ほんとはなにかあったんじゃない? マネジャーの言う通り、様子がおかしいよ。なんとなくうわの空だし」