S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
里恵が向かいパソコンから首を伸ばす。
「ごめん、ほんとになんでもないの。あ、そうだ、ちょっと寝不足続きだからかも。このところドラマのDVDに夢中になっちゃって」
菜乃花は高坂に手渡された資料をデスクの上でトントンと整えた。
「そうなの?」
「うん」
なんとか笑顔で誤魔化したが、唇の端がどうしても引きつる。廉太郎のカミングアウトから五日、菜乃花はずっとこんな調子だ。
風邪を理由に朋久のキスをかわして以来、どう接したらいいのかわからなくなっている。大好きな朋久がとても遠い存在に思えてならない。夫になってしまったからこそ、兄の呪縛がとてつもなく重く菜乃花にのしかかる。
まだ朋久が兄だと決定したわけではないのに、あの写真と廉太郎の話が菜乃花の心をがんじがらめにしていた。
身動きが取れず、深い水の底を漂っているよう。満足に空気も吸えず胸が苦しい。
(やっぱりこのままじゃダメ。はっきりさせないと)