S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

翌朝――。
強烈な頭痛と倦怠感が、ソファにうつ伏せで寝ていた朋久を浅い眠りから起こした。

仰向けになろうとしただけで、頭全体が締めつけられるように痛む。こめかみに太い釘を打たれているほどの衝撃だ。
寝ているのもつらくなり体を起こす。


「――っ」


ぐらりと視界が揺れ、額に手をあてつつ、もういっぽうの手をソファに突いた。

菜乃がここにいないことを忘れたくて酒を煽ったのに、目覚めた瞬間からその事実は鮮明に覚えていて胸まで痛めつける。

水を飲もうと足を踏ん張って立ち上がり、おぼつかない足取りでキッチンへ向かった。

冷蔵庫からペットボトルを取り出し、キャップを開けつつソファまで戻る。そこには昨夜、菜乃花が置き去りにした離婚届があった。


「こんなもの……!」


まだなにも書かれていないそれを手に取り、くしゃくしゃにして丸めようとして考えなおす。菜乃花の決意を朋久が勝手に握り潰すわけにはいかない。
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