S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
裁きのあとの幸せ
昨夜遅く実家に戻ってきた菜乃花は、リビングのソファでうたた寝をしたまま朝を迎えた。
春とはいえ早朝は冷え込む。ぶるっと体を震わせて立ち上がり、洗面所へ向かった。
鏡に映ったのは泣き腫らしたひどい顔。水を出そうとレバーを持ち上げて気づく。
「そうだ、電気も水道も止めてあるもんね……」
出るはずがないのだ。
今日が土曜日で助かった。こんな状態では仕事には行けなかっただろう。
たしか駅前のネットカフェにシャワーの設備があったはず。大きな看板にそんな文言があったのを思い出した。
今後のことはシャワーを浴びてすっきりしてから考えよう。
バッグを持って家を出た。
雲ひとつない空は、暗く淀んだ菜乃花の心とまるで逆。嫌味なほどに眩しい朝日から目を背けたくなる。
京極総合法律事務所にはもういられないだろう。朋久の顔を見るのはつらく、とてもじゃないが一緒に働く勇気はない。
なにから手をつけていいのか見極められず、ただネットカフェの方角に足を向けるだけだった。