S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
愛に溢れたプロポーズを
その年の秋――。
ふたりの結婚式がチャペルで行われることとなった。
ベージュのスリーピースタキシードにシャンパンレッドのボウタイ姿にチェンジした朋久は、菜乃花の支度を別室で待ちながら、眠気と格闘していた。
というのも菜乃花のウエディングドレス姿が楽しみで、柄にもなく昨夜なかなか寝つけなかったためである。小学生のときの遠足でさえ、興奮して眠れないなんてなかったのに。
秋のやわらかな日差しが射し込む窓辺のソファに座り、菜乃花のドレス姿を待ちわびているうちに、睡魔が大きな手を広げて朋久を捕らえにかかる。
重くなる瞼を懸命に開いていた朋久だったが、静かな控室に流れるヒーリングミュージックに誘われるようにして目を閉じた――。
逆回転する走馬灯。ゆっくりゆっくり、時間が巻き戻る。
気づけば朋久は高校生、十六歳の姿。
趣味のケーキを焼いた母親に頼まれて若槻家へ届けた朋久は、リビングの棚に並ぶミステリー小説を手に取っては眺めていた。
菜乃花の母親はミステリーが大好きで、朋久はたまに借りることがあった。勧められるものはたいていおもしろく、ときに十冊持ち帰るときもある。
今日はどれを借りていこうか。
あれこれ手を出し悩んでいたら、パタパタと足音を響かせて菜乃花がやって来た。