S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
ぱっと離れた手を恥ずかしそうに引っ込め、菜乃花はスカートをひらりとなびかせ、母親の元へ走っていった。
時間がゆっくりと元の世界へ戻っていく。束の間の時間旅行が朋久の意識を少しずつ覚醒させ、光を感じた瞼をそっと開けた。
(ここは……)
一瞬、自分がどの時間軸にいるのかわからず混乱する。ソファに体を預けていた自分の姿にハッとする。
そうだ、今日は菜乃花との結婚式だ。
夢を見ていた。――いや、夢のようで夢でない。
あれは十六年も前にあった本当の出来事だ。
(そう、あのときの俺は……)
立ち上がり部屋を出る。向かうは誰でもなく、ただひとり、菜乃花の元へ。
ノックをして返事も待たずにドアを開ける。
「新郎様、ただ今お迎えにあがろうとしておりました」
式場の女性スタッフの声も耳には届かない。菜乃花に一直線に向かった朋久は、椅子から立ち上がった眩いほどの光のベールを纏った彼女を前にして言葉を失くした。