S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
菜乃花の亡くなった母親の月命日が間近に迫ったため、今日は休みを利用してお墓参りに行ってきた。
高校一年生のときに母親が、高校二年生のときに父親が立て続けに病気で他界し、兄弟のいない菜乃花はわずか十七歳でひとりぼっちになり、それから七年が経とうとしている。
朋久へここに付き合ってもらったのは、その帰りだった。
「菜乃、ここ、ついてるぞ」
伸びてきた朋久の長い指先が菜乃花の唇の端をかすめていく。彼はクリームがついた自分の指をチュッと舐めた。
「ったく、菜乃はいつまで経っても子どもだな」
菜乃花の顔がわずかに赤く染まる。
亡くなった両親も友達も〝菜乃花〟か〝なっちゃん〟と呼ぶが、朋久だけは昔から〝菜乃〟と縮めて呼ぶ。だからその呼ばれ方は菜乃花にとって特別であり、ほかの誰にも呼ばれたくない。
「……すみませんね、いつまでも子どもっぽくて。朋くんこそ、甘いものは嫌いなのに舐めちゃって平気なの?」