S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
「そもそも女性は太りたくないと言いながらケーキバイキングに喜び勇んで行くんだから、言葉と行動が伴ってないんだよな」
「スイーツは正義なの」
「甘い蜜で引き寄せて太らせるんだから、どちらかといったら悪者じゃないのか? いや、その誘惑に簡単になびくほうが悪いな」
「もうっ、朋くんの意地悪」
菜乃花が唇を尖らせて反発すると、朋久は楽しげに笑った。
弁護士の朋久には、昔から口で敵わない。
神様にたくさんのプレゼントをされてこの世に生を受けた朋久は、たまに痛烈なひと言を菜乃花に浴びせる。Sっ気があると言ったらいいのか、意地悪な一面があるのだ。
それなのに菜乃花は歩きはじめた頃から彼に心を奪われ、たまに見せられる優しい一面から目を逸らせない。ギャップは人の心を捕らえるのに一番の有効策だとつくづく思う。
むぅと唇を引き結びながらホットカフェラテを飲んでいたら、ふと近くのテーブルから若い女性ふたりの話し声が聞こえてきた。
なんとはなし耳を傾けていたら、そのうちのひとりの勤め先が倒産した話になった。数カ月間、給料も支払ってもらえず途方に暮れていると言う。
(いきなり職を失うなんてかわいそう……)
つい聞き耳を立てて同情していたら、なんと朋久が彼女たちに突然話しかけた。