S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
法で裁かれるほどなんて、よほどでなければないだろう。普通に恋人同士になるくらい、朋久にとってなんでもないはずだ。むしろ、自分の手から離れてせいせいするのではないか。
「いや、たとえばの話。そのくらい難しい相手ってこと。簡単に許してくれなさそうだし」
「そんなことないよ」
今は偽物の婚約者という大事な役目を担っているから無理だとしても。
「京極先生には毎年あげてるんでしょう?」
「うん、まぁ……お世話になってるから」
バレンタインデーの存在を知ってから毎年、欠かさずに朋久にあげているが、名目はいつだって〝義理〟だった。本命なのをひた隠して。
チョコレートをあげていたのは菜乃花が幼いうち。甘いものが嫌いな朋久が成人してからはお酒一択だ。
でも今年は、曲がりなりにも〝恋人〟だから、いつもと違うものをあげてみようか。
朋久に偽装婚約者を頼まれてから一週間が経過。忙しい彼とはこの一週間、マンションでもあまり顔を合わせておらず、恋人のふりをしてほしいと言われてから特別なことはなにもしていない。
ただ単に恩師に会うときに恋人だと名乗るだけだろうから、なにもなくて当然かもしれないが。