S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

京極総合法律事務所に社員食堂はなく、お弁当を持参するか外に出る必要がある。菜乃花は週に一回程度外食するが、たいていは休憩室で里恵や同期たちとお弁当だ。


「〝朋くん〟だって。なんかいいねー」


里恵の前でも気をつけて〝先生〟と呼んでいるのにうっかりそう呼んでしまい、慌てて口元を押さえる。
里恵は決してからかう感じではないが、私生活を晒したようでものすごく恥ずかしい。


「ねね、ここだけの話、京極先生とはそういう雰囲気になったりしないの?」
「そういう雰囲気って?」


いったいどういうものかと目をぱちくりさせる。


「男と女の」


里恵に言われて顔がカーッと熱くなった。


「ま、まさか!」


つい声のトーンが高くなり近くのテーブルにいる人たちの視線を浴びたため、「そんなのなるはずないでしょ」とボソボソ追加する。
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