S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
昔からそうだった。〝俺は関係ない〟といった顔で素知らぬふりを決め込んでいるように見せかけて、困っている人を放っておけない。まさに弁護士にぴったりと言えるだろう。
「持っている知識を人にひけらかしたいだけ。俺は物知りなんだぞって」
「またそんなこと言って」
少しでも褒められると、その反対を言うところはあまのじゃくでもある。そこをかわいいと感じるのは、惚れた弱みだ。
あれはたしか菜乃花が中学生のときだった。菜乃花の父親の誕生日プレゼントを選ぶのに付き合ってもらった街で、しつこいキャッチセールスに捕まっている年配の女性を助けたことがある。
キャッチセールス自体は違法ではないそうだが、女性の前に立ち塞がったり見苦しくつきまとったりするのは禁止行為にあたるらしく、セールスの男性を毅然とした態度で軽々と撃退してしまった。
当時は弁護士になってまだ二年そこそこだったが、朋久の頼もしい姿に菜乃花は胸をときめかせたものだ。
「まぁそれは冗談としても、今のは営業。頼ってくれる人がいなきゃ事務所は成り立たない」
「営業だって必要ないでしょ」
クスクス笑って言い返す。