S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
「若い男女がひとつ屋根の下にいるんだもん。過ちがあってもおかしくないでしょ」
「私のことは妹としか思ってないよ」
それはもう悲しいくらいに。
「そうかなぁ」
でなければ、これまでになにかしらあっただろう。それがたったの一度もないのだから、家族と同じ目線だ。
婚約者のふりを頼んだのは、同居しているから手っ取り早いだけのこと。相手を納得させるには手堅い。
「そうだよ」
訝る里恵にもうひと押ししてごま塩を振りかけたごはんを頬張っていると、テーブルに置いていた菜乃花のスマートフォンが着信を知らせてヴヴヴと振動しはじめた。
画面に表示されたのは充の父、廉太郎の名前だった。
(おじさまだ。どうしたんだろう)
里恵にひと言断り、休憩室を出て少し歩いた場所にある自販機コーナーのスペースで応答をタップした。