S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

「もしもし、おじさま、こんにちは」
『ああ、菜乃花ちゃん、久しぶりだね』


連絡をもらうのは数カ月ぶりだ。


「今日はどうしたの?」
『菜乃花ちゃんから預かってるあの家、また内覧したいって申し出があってね。一応連絡しておこうかと』
「そうだったんだ。ありがとう」


菜乃花が高校生のときまで住んでいた自宅は現在空き家となっており、不動産業を営む廉太郎に管理を任せていた。
とはいえ片づけるのが忍びなく、荷物はほとんどが出ていったときのまま。両親と暮らした家を処分したくはないが、菜乃花では持て余してしまうため手放そうとは考えていた。

菜乃花もたまに空気の入れ替えに出入りするが、廉太郎もまめに確認してくれている。


『ところで菜乃花ちゃん、この前うちの充と会ったんだって?』
「あ、そうなの。街で偶然」
『充がうれしそうに話してたよ』


廉太郎の声も弾んで聞こえる。
< 81 / 300 >

この作品をシェア

pagetop