S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

『それでなんだが、菜乃花ちゃんは充と交際してみるつもりはないかい?』
「えぇっ、充くんと!?」


まさかそんな話になるとは想定外で、頭の上から声が抜けていく。すぐ近くの自販機で飲み物を選んでいた女性が、その声に驚いて肩をびくっと揺らした。


「だけど充くんにそんな気はないと……」


六年ぶりくらいに再会したばかり。彼にそのつもりはないだろう。

廉太郎は昔からひとり息子の充には過保護で、あれこれと世話を焼いていた。小中高とPTA会長を務め、息子のために動くのを生きがいにしているようなところがあったから、今回もその延長だろう。
息子が二十四歳になっても、かわいくて堪らないみたいだ。


『いやいや、最近ずっと菜乃花が菜乃花がって、菜乃花ちゃんの話ばかりなんだよ』
「……そう、ですか」


おそらく親が勝手に気を回しているだけだ。久しぶりに会って懐かしいため、頻繁に名前があがるだけに決まっている。
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