S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
そんな話は初めて聞いた。
「昔よく菜乃の家でおばさんが作ってくれただろう? 菜乃が作るのも、あれと同じ味がする」
えんじ色のリブニットと黒いスキニーに着替えた朋久が、テーブルにつきながら懐かしむ。
「ほんと? お母さんのハンバーグは私も大好きだったから、同じって言ってもらえてうれしい」
ハンバーグから染み出た肉汁を使ったデミグラスソースは母直伝だ。
朋久の自宅には家政婦やプロの調理師がいて、いつだって洗練されたメニューを食べていただろうに、朋久は母の作った家庭料理をいつも『おいしい』と喜んで食べていた。
ナイフとフォークで切り分け、朋久が早速口に運ぶ。
「やっぱり最高だな」
「ありがとう」
うれしくて頬が緩みっぱなしになる。大好きな人に褒めてもらえるのは、なによりのご褒美だ。
そうして食べ進め、朋久の皿があっという間に空になる。おかわりをねだられて、もうひとつ追加した。