S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
いったん立ち上がり、仕事用のブリーフケースからなにかを取り出して戻った朋久はどこか真剣な様子でテーブルに封書を置いた。
そこから薄っぺらい紙を取り出し、テーブルの上に広げる。
(――えっ!? そんなものをどうするの!?)
菜乃花は一瞬、自分の目を疑った。あまりにもショッキングなものを前にして言葉が出てこない。
「菜乃、これがなにかわかるか?」
「……わかるけど」
それをいったいどうするつもりか。
「ここに署名してもらいたい」
「どどど、どうして?」
おかしなくらいにつかえ、目が盛大に泳ぐ。朋久が菜乃花の前に滑らせたのは、婚姻届だった。本物の婚約者同士が互いにサインをする、あの婚姻届。
しかも夫となる者の欄には朋久の名前が少し癖のある綺麗な字で記され、押印もされていた。
「このくらいしないと納得するような相手じゃないんだ」
「……もしかして例の教授さんが?」