S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
朋久は「ああ」と深く頷いた。
なんでも、自分の娘と朋久との結婚を強く望んでいたらしく、結婚前提の恋人を会わせたくらいでは納得しないと言う。事務所にやって来た日以降、『本当に恋人なんているのかね?』と何度となく電話が入っていたそうだ。
そこで朋久は、婚姻届にふたりのサインをして承認欄には藤谷の署名をもらおうと考えたらしい。そのくらい真剣に交際している相手だと知らしめるために。
「もちろん、これを役所に提出するつもりはない」
朋久の言葉にがっかりするのは否めなかった。そこにサインをする以上、てっきり本気で届け出るのかと考えたからだ。
(いっそのこと出してくれてもいいんだけどな……)
朋久のお嫁さんは小さな頃からずっと胸に抱いてきた夢。幼さに乗じて、彼に逆プロポーズしたこともある。
きっと朋久は記憶にもないだろうが、今の菜乃花では考えられない果敢さだった。
「……提出してもいいのに」
「え?」
心の声がうっかり漏れた。