S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
〝菜乃でいい〟ではなく〝菜乃がいい〟と、一文字の違いでたやすく心が弾む。
「朋くん、気はたしか? そんなこと言うなんて……」
深い意味は意味がないのはわかっている。偽装婚約者を頼んできたときのように、一緒に住んでいるから都合がいいだけ。
「手っ取り早いからな」
「ほんとひどいんだから」
「冗談だ。俺は……」
妙なところで朋久が言葉を止めるから、否応なく心拍が乱れる。
「……なに?」
我慢しきれず聞き返したが、「いや、なんでもない」と誤魔化された。
婚姻届をあっさり用意するくらいだから、たぶん結婚自体にこだわりがないのだろう。スタンプカードに判を押すのと同じ感覚に違いない。
でも、朋久が困っているのだから助けたいのはもちろん、教授の娘との結婚話が今すぐ進むのだとしたら阻止したい。たとえ一時の結婚だとしても。