グレーな彼女と僕のブルー
prologue
高校から帰宅すると、家が燃えていた。
いや、燃えていたと言うといささか語弊がある。なにも轟々と炎が黒煙を上げて立ち昇っていたわけではない。
火事のために呼ばれた消防車が僕の住む二棟続きの家の前へと停まり、消火活動をしている、というのが正解だろう。
とにかくヘルメットと防火服に身を包んだ消防隊の人たちが忙しなく動き回っていた。
「……なにごと?」
近所からより集まった野次馬に混ざり、思わずそう呟いていた。まるっきり現実味がない。
「ああっ! 恭介!」
すぐそばで誰かが僕の名を呼んだ。母の声だ。キギィ、と音が鳴りそうな、人形さながらの動きで首を横にする。
不安と安堵の入り混じった瞳で母が僕を見つめて走り寄った。耳にスマホを当てている。どうやら電話中らしい。
母は僕の肩に手を置いてから電話の相手に頷いた。
「……うん。恭介も今帰って来たところだから、荷物の事情がついたらそっちに向かうわね? 本当にありがとう、お姉ちゃん」
それからは、うんうんと相槌とともにひとことふたこと会話を交わし、母は通話を終わらせた。電話の相手は叔母さんだったようだ。
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