グレーな彼女と僕のブルー
「え」

 僕の返事も待たずに、紗里は目の前のガードレールに手を掛け、ヒョイと飛び越えた。その際、制服のスカートが風に舞って捲れ上がる。

 ……っな。

 そのまま左右を確認し、チラホラと通り過ぎる車の往来を見計らうと、横断歩道でもない道路を一息に渡って行った。

 僕はその場に立ち止まったままで、紗里の後ろ姿を目で追っていた。彼女は向かい側にある階段を昇り、小柄なおばあちゃんに声をかけていた。

「……あ。なるほど」

 状況を察して独りごちた。

 紗里はおばあちゃんが肩に担いでいた手提げ鞄を受け取り、一緒に階段を昇っている。数段先までゆっくりと昇りきると、おばあちゃんに荷物を渡し、手を振っていた。

 あのおばあちゃんが荷物の重みでフラつき、階段を転げ落ちる映像を視たんじゃないかと想像した。

「……あれ?」

 いつの間にか、道路を渡った紗里が戻ってきていた。今度はガードレールの切れ目まで回り、立ち止まる僕に追いついた。

「恭ちゃん帰ってなかったんだ?」

 どこか嬉しそうに笑う紗里を見て、ぎこちなく頷いた。

「紗里が何するのか気になったから」

「そっか」

 そしてまた並んで歩き出す。
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