グレーな彼女と僕のブルー
「今のもそうなんだよな?」

「うん」

 紗里は目線を前に据えたまま、曖昧に口角を上げた。

「その準備予知っていうのは、だいたいすぐ起こることの方が多いのか?」

「……うーん。それぞれによって、五分後とか翌日とか数日後とか。起こる時間はまちまちなんだけど……灰色の影と一緒に、数字も視えるの。だから正確な時間が分かる」

「そうなんだ」

 紗里の横顔を盗み見ながら、僕の頭の中にはさっき見たワンシーンが再生されて、なかなか消えてくれない。

 紗里がガードレールを飛び越えたときにチラッと見えた、あのスカートの奥が……。

「あれ。恭ちゃんやっぱり風邪? 顔赤いよ?」

「っ、なんでもないよ」

 無理やり顔をしかめてそっぽを向き、淡々と帰路を辿った。僕の赤面がよほど面白いのか、紗里はしつこくからかってくる。

 ふいに一台のパトカーが赤色灯を回して僕たちを追い抜いて行った。サイレンを鳴らして走行するのを目で追いかけ、何か事件かな、と暢気(のんき)に首を傾げる。

 何気なく隣りに並んだ彼女を見やると、紗里は俯きがちに一瞬だけ険しい顔つきになった。

 なんだろう……?
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