グレーな彼女と僕のブルー
 疑問に思うものの、わざわざ取り立てて聞くことでもないだろう。声を喉元に押しとどめた。

 むしろ紗里の小さな変化に対して、いちいち反応する僕こそがおかしいのだ。


 *

 翌日、誠が登校した。僕と同じように右足を引きずりながら、「よぉ、恭介」と彼は明るい笑みで手を挙げた。

「三日も休むから心配したよ」

「はは、悪い悪い」

 空が剥き出しになった三階の渡り廊下で腰を下ろし、昼メシを食べていた。

 いつもなら屋上か中庭におりて食べるのだが、いかんせん、二人して足を痛めているのでこの場所が限界ラインだ。

「消毒するのに病院行ってたのもあるけど。なんて言うか……夜寝付きが悪くてさ。昼間寝てダラダラしてた」

「結局、サボりかよ」

「言うなって」

 誠は母親の手作り弁当を頬張り、ペットボトルのお茶に口を付けた。昼食はだいたいいつも購買のパンなのに、今日は珍しくお弁当だ。

 きっと買いに行くのが困難かもしれないと判断した、母親の思いやりだろう。

 そういう僕も、いつも母特製のお弁当だ。

「なぁ、恭介」

「ん?」

「俺さ。やっぱ赤城さんのことは諦めるわ」

「え、なんで?」

 意外だった。あんなに紗里の話を延々と聞かせてきたくせに。

「なんでって、脈ないし」
< 111 / 211 >

この作品をシェア

pagetop