グレーな彼女と僕のブルー
 先輩は無表情で続け、「足止めして悪かったな」と言ってクルリと踵を返した。

 立ち去る古賀先輩の背を見つめ、どこか拍子抜けする。

 てっきり紗里とのことを変な風に誤解されていて、殴られると思っていた。

 ホッと安堵し、肩から力が抜けた。

 部活中のパワハラはあったけれど、思ったほど嫌な先輩でもないのかもしれない。

 分からないけど……。

 少しだけ首を傾げ、「行こうぜ」と誠を促した。


 *

 それから数日、怪我が全快するまで部活動を休む日が続いた。その間に中間テストもあり、試験勉強をしなければいけない分、日々は矢のように過ぎ去った。

 朝起きて同じ時間に家を出る僕に紗里が付いて来て、そのまま学校に着くとヒソヒソと噂話に遭遇し、休み時間は普通に紗里に話しかけられる。一緒にいる誠も会話に混ざる。

 紗里の友達らしき三組の女子にも声をかけられるようになった。

 今までになかった光景が繰り返され、麻痺にも似た感覚が起こる。

 いつしか紗里は僕の生活の一部となり、一緒にいて当たり前の存在になっていた。

 十月も終盤を迎える頃になると、空気は乾燥し、日中冬服でいても肌寒く感じるようになった。比較的過ごしやすい秋が、冬にバトンを渡したのだろう。
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