グレーな彼女と僕のブルー
「悪かったな、試合のまえ」

「……え」

 ボソッとつぶやき、古賀先輩が立ち上がる。

「外周でぶつかっただろ。……アレ、悪かった」

「……あ、いえ」

 先輩は無愛想に僕らを一瞥し、そのまま無言で去っていく。

「なんか今日の古賀先輩、あんまり怖くなかったな?」

 誠の言葉を受けて「そうだな」と相槌を打つ。それで精一杯だった。


 *

「お帰り、恭ちゃん」

「……ただいま」

 昼過ぎで部活を終えて、居候先の赤城家へと帰り着く。

 この家に帰って来るのもあと片手で数える程度だ。

 リビングから廊下に出てきた紗里が「ケーキ焼いたからね」と嬉しそうに報告してくれる。

「お帰り、恭介」

 単身赴任先から旦那さんが帰宅するということで、今日の紗代子叔母さんは休みだ。

「お腹すいたでしょう? お昼親子丼なんだけど、もう用意しちゃってもいい?」

「……あ、はい。あの、でも。俺汗くさいんで、先にシャワー借りてもいいですか?」

「ふふ、いいわよ。浴びてらっしゃい」

 すみません、と会釈し、部屋に戻って鞄を置いた。廊下に出ると何故か紗里が待ち構えていて僕に近付いてくる。
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