グレーな彼女と僕のブルー
 くんくん、と鼻先を寄せていちいちニオイを嗅いできた。

 ……げ。

「ほんとだー、恭ちゃん汗の匂いがするー」

「うう、うるさい、寄るなっ」

「部活頑張ったんだね?」

「……。ひ、久々だったからな」

 つまらない勝負に張り合ったとは言えず、早々と脱衣所に入った。

 なんなんだ、あいつは。普通ニオイなんか嗅がないだろ。

 犬みたいだな、と考えが及び、つい一人で笑ってしまった。


 五時前になり、窓から見える夕焼けが静かに青ずんできた頃、家のチャイムが鳴った。

「はーい」と紗代子叔母さんが返事をしながらスリッパを鳴らす。部屋で課題に向かっていた僕も、こっそり顔を出した。

 そばに紗里が立っていて、「パパが帰ってきたよ」と嬉しそうに目を細めた。少女のようなあどけない表情になる。

 ちゃんと挨拶しておこう、と僕も廊下に出た。

 玄関扉が開き、「ただいま」と穏和に笑うおじさんを紗代子叔母さんが出迎えている。

「パパ、お帰り」

 紗里も嬉しそうだ。二階の部屋から大和が降りてきて、同じく「お帰りなさい」と声をかけている。

 うん? と目を見開き、おじさんが僕を見た。慌てて頭を下げた。
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