グレーな彼女と僕のブルー
 家族で囲んだ夕飯だからこそ味わえる、幸せの味だ。

 ご飯を食べ終えたあと、紗里が自信作だと言ってケーキを勧めてきた。

 ダイニングテーブルでお酒を楽しむ大人たちから離れて、僕たちはリビングのソファーに移動した。

「んー、うまっ!」

「でしょう? 前もってスポンジも昨日に焼いたんだから!」

「……そうなんだ」

 いつの間に……。

 前回の叔母さんの誕生日で食べた時のように、懐かしい味がして無意識に頬が緩んだ。

 ふいに紗里が僕の顔を見て、ぷ、と吹き出した。

「恭ちゃん、子供みたい」

「え?」

 伸びてきた白い指先が僕の口元をぐいっと拭った。親指に付いた生クリームを紗里がペロリと舌で舐めている。

 その仕草をまともに見て、頬がカッと熱くなった。

 走ってもいないのに、心臓がドンドンと太鼓を打ち鳴らす。体中の細胞がワッと目を覚ますような昂りを覚えた。

 それを悟られたくなくて、僕は紗里の皿に入った大きな苺をヒョイと横取りしてやった。

「ああっ、それ最後に食べようと思って取っておいたのにー!」

 酷い、と言ってむくれる紗里を横目に、苺の甘酸っぱさを堪能する。
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