グレーな彼女と僕のブルー
「……なんだ、てっきり要らないのかと思ってた」

「嘘! わざとのくせにー」

 紗里のヘナチョコパンチが飛んでくる。

「ママー、紗里と恭ちゃんが喧嘩してる〜」

「放っておきなさい、大和。その子たちはそれで仲良しだから」

 母と紗代子叔母さんはグラスについだ炭酸のお酒をちびちびと舐めるように飲んでいた。

「そういえば、いつだったか二人に花瓶を割られたことがあったのよねぇ」

「あぁ、あったあった。あの時お姉ちゃん、だいぶん落ち込んでたよね?」

「そうそう。帰ってくるなり二人してごめんなさいって土下座なんてするものだから、怒るに怒れなくて」

「それよりも怪我してないか心配してたぐらいだし?」

「あはは、それそれ」

 親たちの談笑を聞きながら、きっと夢で思い出した記憶に違いない、と苦笑いする。

「寂しくなったらいつでも遊びに来ていいんだよ?」

「え」

 ケーキの最後のひと口を溶かすように食べ、紗里がニッと口角を上げた。

「道に迷いそうならあたしが迎えに行ってあげるから」

「ばーか」

 あの距離で迷うわけないのに。
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