グレーな彼女と僕のブルー
 生クリームとスポンジで汚れた空っぽの皿を、僕はしんみりとした気持ちで見つめていた。

 そうか。俺、寂しいのか……。

 今になってようやく気が付いた。

 僕は紗里と離れ離れになるのが無性に寂しいんだ。引っ越しをしたらもうこの家に僕の居場所はない。

 こんなに賑やかで楽しい夜は、そう簡単にはやって来ない。

「紗里っ、そろそろ始まるよ」

 大和がテレビのチャンネルを変えて、いつも二人が熱中して観ているドラマが始まった。バディを組む刑事もののドラマだ。

「前回の続き、気になってたんだよねーっ」

 もはやテレビ以外の音声は受け付けませんと言いたげに、姉弟はドラマの映像に釘付けになっている。そんな紗里の横顔をそっと盗み見た。

 もう少しこのままでいたい。

 そう強く想って曖昧に視線を手元に寄せた。

 なんだ、俺。

 こいつのこと、好きなんじゃん。

 馬鹿みたいだ。

 あんなに引っ越したいと思ってたはずなのに、いざ出る頃になって寂しがるなんて。

 ……離れたくない。

 膝の上に置いた片手をぎゅっと握りしめた。

 空っぽになった皿をシンクに置いたたらいにジャボンと沈めた。

 ***
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