グレーな彼女と僕のブルー
『恭介、お前の長所は我慢強さだ。今は困難な状況かもしれないけど、きっとそのうち"これで良かった"と思えるようになる。だからそれまではお母さんと二人で頑張るんだぞ?』

『わかった……』

 それまで朧げでよく見えなかった父の顔がくっきりと目に焼き付いた。

『引っ越しのことは当分考えるな』

 父の温かい笑みは遺影のものと相違なかった。

 ふと、瞼の裏が明るみを帯びたことで自然と目があいた。

「……夢か」

 何年も前に亡くなった父を夢に見ていたのかと自覚し、暫しぼうっとする。

 天井の柄が毎朝見ているものとは違う。周囲を確認するために寝転んだままで首を横にすると、微かな匂いが鼻腔をくすぐった。

 この家独特の匂いだろうか。やけに懐かしく感じる。

 ゆうべは紗代子叔母さんのご飯をいただいて、誰も使っていない部屋という理由で一階の洋室に布団を敷いてもらった。

 無意識に昨日のことを思い返していた。火事に遭い、従姉弟の家に居候する羽目になるまでの顛末を。

 今日から居候生活のスタートだ。みぞおちの辺りがモヤモヤして、吐いても無くならない憂鬱が僕の内面を灰色に染めていく。

 早く引っ越ししたい……。
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