グレーな彼女と僕のブルー
 透き通る彼女の大きな瞳が、僕を正面から捉えていた。シャッターを切るようにぱちぱちとまぶたを開閉させている。

 途端に彼女の左目だけが閉じられて、ウインクをする仕草で僕を見た。

 たちまち紗里の顔色がサッと青みを帯びた。

 うん……?

 今来た通りの奥で数人の怒鳴り声と悲鳴が聞こえた。バタバタと走る足音もそれに混ざって聞こえ、僕は振り返った。

「強盗よッ、誰か捕まえてーっ!」

 女の人の悲鳴にも似た叫びと共に、中年層の男がものすごい勢いで走り寄って来る。

「どけどけぇッ!!」

 ……っ強盗!?

 ちょうど道は狭いし、ここで僕が食い止めなければと思うのだが。

「危ないッ、恭ちゃん!」

 突如として紗里に押された。渾身の力でドンと押されたせいで、ガードレールに腰を打ち付けた。

「ってぇ……!」

 痛みと一緒に温かみを感じた。柑橘系の香りがふわっと匂い立ち、僕の鼓動を不規則にした。

 抱きつくようにガードレールに追いやられたせいで、人ひとり分が通れる隙間が空いた。

 強盗は僕らのすぐ横を颯爽とすり抜けて行った。それに続いて青い制服を来た警察官が全力疾走で追い上げていく。
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